表へ出ろⅢ〜ピコ氏の鼓動は148/分〜(その三)

陣痛促進剤は量をMAXにまで増やされている筈なのだけど、相反してどんどん陣痛の間隔と長さが弱まっている。ちょっとの呼吸法で陣痛がすぐ治まってしまう。
私からNSTの装置が見える様になっていて、装置が排出する折れ線グラフを見ても、促進剤が投与され始めの頃位に戻ってしまっている。
その割に痛さは変わらないどころか強く感じていたのは、今までの痛さで体力を消耗していた為だった様だ。途中2・3度程陣痛の合間を縫ってトイレに立った際、段々フラフラになっていくのが分かる位だったので。
分娩室入り口の机にピコ氏のベッドに立てかける札(○○さんベビーとか生年月日や体重の書いてあるアレ)が用意されているのを見つけて、ここは頑張らねば、と思う。
昨日からの疲れか陣痛の合間にうとうとしてしまう。居眠り出来る様な陣痛というのは、相当(陣痛が)弱まっている証拠だそうで、ガックリ来る。
最後の二時間あたりになるともう、確実に弱まる陣痛を馬鹿正直に数値&グラフ化するNSTが憎くなる。とうとう機械にも脳内八つ当たり。そんなんなら見なければいいんだけど、気になっちゃうんだなこれが。
相当体力を消耗して弱ってるらしくて陣痛の度に体がガクガクしてくる。「これは勝ち負けで言うと負け」とか「絶望は人を殺す」とかいう言葉とか、古今東西・2次元3次元の「負け」ビジュアルイメージが頭の中をグルグルし始める。ギャグ入る余地流石になし。これで駄目なら手術だから怖い、というより一種の挫折感の方が大きかったのかも知れない。今までが全く問題なくて、最後の最後にこれで正に晴天の霹靂だったしな。


とうとう時間切れとなったけど、陣痛弱まったまま変わらず。医師が再び診察。見事なまでに全然体にも変化なし。医師と目が合ったときお互いに「だめだこりゃ」という気持ちが通じ合った(様な)。
医師が「切りますか?」と聞いたので、仕切りなおして誘発をしても好転する保障もなし、羊水が少ないのに破水をしている事もあるし、何よりピコ氏が元気な内に無事に出さないと意味がないので帝王切開をお願いする。
人生初大き目の手術という事でビビリつつも、ピコ氏を無事に産める、という安心感から多少余裕が出てきて、夫の人に「何か今脳内で北村X星人が『カイザーだ!』とか言ってるよ」とかしょうも無いことを言ってみたりしてた・・・・・・が、まだ促進剤の効き目は切れておらず、陣痛は続いていた。
「ちょっと待て、麻酔を打つ時に陣痛が来たら痛さに動いてしまうんじゃないか?」と新たな不安が過ぎる。一度不安になるともう止まらなくなり、看護士さんにその辺大丈夫なのかと不安を漏らしまくると、「もっと強い陣痛がついてて、緊急帝王切開になってる人でも麻酔の時は動かない様に出来るし、スタッフが押さえ込むんだからその位の陣痛でどうこう言うな」てな感じでおこらりたので、反省して動かない様に練習してみる。そうこうしている内に促進剤は切れた様で一安心。手術台へ上がったのだった。
(予想以上の長文に我ながら呆れつつそろそろ次回完結)